2080-01西暦2080年。石油資源の枯渇に端を発するエネルギー問題は、石油輸出国機構による輸出停止によって北大西洋連合による中東侵攻にまで発展した。 この状況に乗じて、北大西洋連合との関係が冷え込んでいた亜細亜集合国家の首相『盛』は集団防衛権を行使。 こうしてユーラシア大陸を巻き込んだ第三次世界大戦が開戦した。 開戦数ヶ月間は戦力が拮抗しており、両勢力は疲弊し始めていたが、 開戦から半年になろうとする頃……戦局は動き始めた。 ◇ 某日未明。 中国西部、北大西洋連合前線基地には静かな緊張に包まれていた。 ここはかつて亜細亜集合国家の所有していた基地であるが、 数週間前の戦闘によってその所有者を変えている。 何度か奪還を目指すASDF(Asia Self Defence Force)の攻撃を受けているため、 いつものように見張りの兵士達の警戒は厳しい。 ……しかし、今日は状況が違っていた。 彼らはすぐそこの森に潜む者達に気付いていないのだ。 ◇ 「……配置完了。作戦開始まで100」 オペレーターの声がヘルメットの中に響く。 シートに座っていた男は、それを聞いて操縦系を軽く再チェックする。 異常がないことを確認すると、彼は通信機のスイッチを入れた。 「突入班は俺に続け。それ以外の者は固定砲台、MBT(主力戦車)を優先して攻撃。79式の到着まで 持ちこたえろ」 「了解」 「了解」 小隊の各機から短く応答がある。 それを聞き届けた男は、一度深く呼吸をしてスロットルレバーを握り直した。 「……作戦開始。各機、行動を開始してください」 「行くぞ。全機、行動を乱すな」 ◇ 基地に張りつめていた緊張の糸は、待機中のMBTの爆発とともに切れた。 「敵襲か!?」 「誰も接近に気付かなかったのか!」 一瞬の後、基地は迎撃に出る兵達と上士官の怒声に包まれる。 「敵の種別、数は!?」 「基地内に侵入したのは8、しかし……データにない兵器です!」 「何だと!?」 再びの爆発が起こり、司令室も激しく振動する。 「ええい、迎撃はまだか!」 「…外に出ているMBTはたったいま全滅しました」 それを聞いた基地司令の表情が驚愕に変わる。 「ASDFめ……一体、奴等は何をしたのだ」 「司令、ここはもう……」 「わかっている……脱出す――」 その言葉は、司令室の壁を崩して現れた『モノ』によって遮られた。 「な……」 それは、戦車や歩兵ではなかった。 強いて言えば、北大西洋連合でも採用されている歩兵用の『エクソスケルトン』に似たフォルムをしていたが、 その大きさは3メートル程もあった。 ――金属の巨人。一言で表せばそうなる。 あまりにも威圧的なその兵器は、一瞥するようにカメラを動かすと、肩の重機関銃で司令室を掃射した。 そこにいた全ての者は、最期までその巨人を呆然として見続けていた。 ◇ 朝日の中、まだ所々から煙が上がっている基地に血を浴びた巨人が立っている。 その足下に、ASDFの兵士が近寄って来た。 「今日の手際は今までで最高だったぜ、椙山中尉」 その声に答えるように、巨人の胸のハッチが開く。 「やはりそう見えたか、軍曹。今日はこいつの調子が良くてな。 整備の連中が頑張ってくれてるみたいだ」 巨人から降りた男……椙山賢治は、ヘルメットを取りながら答えた。 黒髪の、20代前半と思われる青年の顔が朝日に照らされる。 「『強化外骨格』か……初めて見たときは何の冗談かと思ったが、ここまで強力だとはな」 軍曹が巨人を見上げながら感想を漏らす。 「確かに装甲、火力は戦車には及ばない。だが、このサイズで対物火力・高機動を持っているのは 拠点制圧に非常に向いている」 「……というのが上の見込みだろう?実証されたも同然だな」 「そうだな。……少なくとも、この『デュラハン』は」 「さて、まだ作業は残ってるんだ。中尉、先に行ってるぜ」 「ああ。俺もすぐ行く」 ◇ ASDF運用実験部隊。それが彼らの所属する部隊の名である。 数々の新兵器がここで運用され、ある物は量産されて各前線へ。またある物は表へ出ることなく消えていく。 今もまた、彼らの基地へと輸送ヘリが向かう…… ジャンル別一覧
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